一人で帰れます"とかナシな

 

"…ガシ。"

 

 

 

部長の手が私の腕を捕らえた。

 

 

 

何だか惨めな気分になっていた私は、振り返りたくなくて、前を向いたまま足だけを止めた。

 

 

 

「…送ってく」

 

 

彼は驚くべき言葉を放つ。

 

 

「お…おくっ…」

 

 

驚き過ぎて思わず彼の方を見てしまった。

 

 

しかもバッチリ目が合う。

 

 

なんで?

 

 

その気持ちは彼女の方にも現れてる。
アイラインやマスカラで真ん丸な可愛らしい目を、より真ん丸にさせて驚いている。

 

 

 

"相川さん可愛いな…"

 

"身長が高い二人はモデルの様で、お似合いのカップルだな"

 

 

意外にも冷静に、今そんな事を考えてる自分に驚いた。

 

 

 

 

「隆二さん…だっ…て…約束…」

 

 

「相川さん、申し訳ないけど、彼女は僕の大切な部下なんだ。こんなに遅くまで残って働いてくれた、外は暗いしもう遅い…無事に帰ってもらいたいんだ」

 

 

そう言って彼は、私の腕を掴んだまま、有無を言わさない口調と眼力で彼女を丸め込んだ。
その視線は私にも返ってきて…

 

 

 

「いいね?寿さん…」

 

 

 

"こくん"

 

 

 

私は頷く事しか出来なかったけど、辛うじて返事する事が出来た。

 

 

でも…

 

"どうして?"

 

 

疑問がよぎる。

 

 

 

私のこと、"手のかかる部下"くらいにしか思ってないじゃない。

 

 

 

急に優しくなんてしないでよ…

 

 

お願いだから…

 

 

 

これから悪いことが起きるんじゃないか?って、

 

 

良い事には悪い事が付き物だから、心配になっちゃうじゃない。

 

だけど彼は、その私の不安を吹き飛ばすかの様に、今度はしっかりと手を握り、私の肩をそっと押し、紳士的なエスコートでオフィスを出た。

 

 

オフィスを出る寸前に一度振り返り、相川さんに向かって

 

「楽しみに待っててな」

 

そんな甘い言葉を残して。

 

 

 

 

 

 

一体この人が何を考えてそうしているのか、私はそんな事を考えながら彼の後ろを歩いた。

 

 

なんか…すっきりしないな。

 

 

やっぱり…

 

 

「あの、やっぱり私…」

 

「"一人で帰れます"とかナシな」

 

 

立ち止まり、振り返った彼の顔は真剣だ。