余計な一言

 

「あぁ。仕事熱心なのか仕事が出来ないのか分からないが、残業好きな部下がなかなか帰してくれなくて…な、寿遥香」

 

 

 

そう言う部長の口角は上がっていて、意地悪そうに笑う。

 

 

"う…"

 

 

悔しいけど何も言い返す事が出来ない。

 

 

「す…すみませんね!今度の取引先との資料、出来るだけ良いものを作りたかったんですぅ!!!。・・・ま、まぁ、どうせ私の自己満だし、私みたいなただのOLが張り切っちゃってもしょうがないんですけどね;」

 

 

熱く語っちゃった事が恥ずかしくて思わずそんな事言っちゃった。

 

 

"てへへ"と照れ隠しに頭を掻きながら、部長とは反対側に向いて帰り支度をしていると…

 

 

部長がすぐ側まで来ているのに気がついた。

 

 

"何だか見つめられてる?"そんな気がして振り返ると…

 

 

 

 

 

給湯室で見せた、あの悲しみを含んだ優しい笑顔で私を見つめてるかと思ったら、

 

 

部長の左手がゆっくり私の頬に近付いて…

 

"バンっ"

 

突然勢いよく開け放された扉からは、部長の噂の相手である相川さんが元気よく入って来た。

 

 

「隆二さぁ〜ん?…あっ!見つけた♪ここにいらしたんですか?もぉ〜、探したんですよ!!"ちょっと待ってろ"なんて言ってなかなか帰ってこないんだか――…」

 

 

そこまで話しながら近付いて来た彼女は、私が居る事に気がついたみたい。

 

 

明らかにイヤそうな、困惑した顔で私を見てる。

 

 

 

話題の張本人、佐伯部長は、触れようとしていた左手こそ下ろしたけど、私のことをずっと見ている。

 

私と言えば一体どこを…はたまた彼と彼女のどちらを見ていたら良いのか分からなくて視線を泳がせていた。

 

 

 

少しの沈黙…

 

 

痺れを切らしたのか、彼女が部長の腕を揺らし、

 

「隆二さん?行きましょう?」

 

口を尖らせ、甘える様に囁く。

 

 

 

「…今日はせっかく、あのホテルでディナーなのに」

 

 

余計な一言を…

 

"はいはい、ご馳走様です"

 

私はとうとう溜め息をついて荷物を手に持った。

 

 

 

「私、帰りますので…失礼します」

 

 

一礼してその場を離れようとした時。