お向いさん

 

「はいはい、いいから乗れって…」

 

 

溜め息混じりに言いつつもちゃんとエスコートし、立派な黒塗り車の助手席に私を座らせ、スマートに運転席に乗り込んだ。

 

 

 

「で?お嬢様…目的地はどこですか?」

 

 

ハンドルに手を置き、頭をもたれかけながら、私の方を
チラッと見て問う。

 

 

 

 

"ドキっ"

 

 

 

不覚にも胸が高鳴ったのが分かった。

 

 

 

ちがうの。

 

 

ただ、ただ、そういう格好が大人だなって、そう思っただけ、それだけ…

 

 

彼に惹かれたわけじゃ…

 

 

惹かれたわけじゃ…

 

「お〜い…早く送りたいんだけど?」

 

 

 

そう言われて我に返る。

 

 

「あっ!すみません!!そうだった、相川さん待たせてるのに…」

 

 

 

 

 

"…そうじゃない"

 

 

 

そう聞こえた気がするけど…
気のせいよね。

 

 

 

「で?…どこ?」

 

 

「西区の3丁目です」

 

 

 

「西区の…3…丁目…ん?もしかして〇〇ってマンションか?」

 

 

彼は私の住んでるマンションの向かいにある、高級マンションの名前を言った。

 

 

「まさかっ!違いますよ!!一人暮らしでそんなお金ないですってば!!」

 

あのマンションにはお金持ちばかりが住んでいる。

 

 

まさに佐伯部長が乗ってる様なこういう車がズラッと並んでて…

 

 

「あぁ〜、じゃあー向かいのマンションか…新しいし、セキュリティー堅いし、女の一人暮らしにはちょうど良いんだろうな」

 

 

ずばり当たってる。

 

 

「あの辺詳しいんですか?」

 

「いや、俺どうやらお前の向かいに住んでるらしいから…」

 

 

「えっ!!ご近所さんですか?偶然ですね!向かいのマンショ…」

 

 

 

ンって・・・

 

 

「あの高級マンション?!!」

 

「いや、別に高級って程でもない。手頃だと思うがな」

 

 

…ててて手頃。

 

 

 

さすが、社長の甥っ子さんともなると感覚が違うのですね。

 

 

そんな事を思っていると、気付けば車はだいぶ進んでおり、あと半分程の距離まで来ていた。

 

 

 

 

"あっという間だな…"

 

 

 

 

 

 

「…なんだそれ」

 

 

 

はっ!しまった。思わず声が出ちゃった。

 

 

彼は"は?"とでも言いたげな表情で私を見つめている。

 

 

 

まるであっという間に着く事を残念がってるみたいな…そんな自分に思わず突っ込んでしまった。